ストーリー
旨いネタを育んでくれる気仙沼の海に支えられ、 たくさんのお客さまの笑顔に支えられ、 「新富寿し」は、三〇年以上にわたって みなさまに愛されてきました。
そして起きた3.11。 その後、同じ境遇の仲間とともに 手探りではじめた「流され寿司」の活動。 全国津々浦々を巡り、寿司を通じて たくさんの方々とふれあっていく中で、 私たちの胸に深く刻まれたのは、 “人とのつながり””あたたかさ”、 そして”感謝の心”でした。
二〇一四年、 「新富寿し」は新しく生まれ変わりました。
私たちはこれからも、大好きなここ気仙沼で、 一貫一貫わっつらうまい寿司を 握りつづけてまいります。 たくさんのみなさまとの絆を大切に、 ありったけの魂と感謝を込めて。
鈴木 真和 鈴木 和洋
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木桶
桶職人の哲学と技術が詰まった逸品。
私たちが使っている桶は、樹齢約500~600年の木材から作られています。でも私たちがこだわったのは、この樹齢ではなく、桶職人の金田孝一さんに作っていただくことでした。
金田さんは「木を知るには五十年以上かかるんだ」と言います。人間一人一人の性格が違うのと一緒で、木一本一本にも性格があります。金田さんは昔からの言い伝えを守り、木とじっくり向き合い、その性格を熟知することを大事にして、一つ一つの桶を丁寧に作っていくのです。
森から川へ、川から海へと水が流れていくように、海はたくさんの恩恵を森から受けています。それと同じように、山の桶職人から街の寿司職人へ、そしてお客様へとつながっていく想いがあります。私たちは、これこそが最高の隠し味になると信じています。 桶に込められた金田さんの想いを、私たちが握る寿司から感じていただけたら嬉しいです。
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一枚板
新富寿しを見守る、先代からの贈り物。
この一枚板は、創業者である父がその昔カウンターに使用しようとして購入したもので、私たちにとっては父が残してくれた唯一の形見です。 3.11の時は、母方の実家に保管してあったため、被災を免れました。 亡き先代が、この一枚板を通じて、私たち二人の息子の仕事を、優しくも厳しい目で見守ってくれている気がします。父を知るお客様には父の面影を思い出していただき、またそうでないお客様には受け継がれてきた新富の魂を少しでも感じていただけたらと思います。
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器
寿司の旨さを優しく演出してくれる引き立て役。
カウンターで寿司や刺身をお出しする時に使用している器(ゲタ)は、岩手県藤沢焼の窯元である本間伸一さんによる作品です。
本間さんは、まるで山や土と同調しているような、おおらかで、優しくて、やわらかい印象の方です。私たちも、寿司職人は海やネタと同調する感覚が大切だと常々思っていて、同じような感覚を持った本間さんなら、と器作りを依頼させていただきました。こちらからお願いしたのは、釉薬を使わないことと器の大きさだけ。あとは本間さんにお任せしました。
シンプルで、無骨な印象の器は、存在感がありながらも、我を出し過ぎず、優しく料理を演出してくれます。器は、同じ窯に入れても二つとして同じ顔のものはできません。それぞれの器の個性を楽しんでいただけたら幸いです。